ソウルのヨンナムドンにあるおしゃれなカフェで、1,000円くらいするクロッフルを食べていたときのことです。ふと天井を見上げると、コンクリートがそこだけ不自然に、パッチワークみたいに塞がれているのに気づきました。なんだろうこれ、と思ってよく見ると、どうやらそれ、昔ここが「家」だった頃の配管の痕跡で。真上にあった2階のトイレの名残なんです。
日本だと、住宅は住宅、店は店、って分かれている感覚が強いですよね。でもヨンナムドンは、その境界がいきなりほどけている。古い住宅の中身が、ソウルの熾烈なカフェ文化に内側から食い破られて、まったく別の空間に作り替えられていきます。あの公園ができて、人の流れが路地に入り込むようになってから、その改造は一気に加速しました。
街を歩くと、赤いレンガの古い家が目につきます。80年代につくられた多世帯住宅で、骨格だけ見るとどれもよく似ている。でも、この街ではそれが「壊して建て替える」より、「残して使い倒す」ほうが都合がいいんです。
というのも、新築にしてしまうと、駐車スペースの確保など、今の基準をまるごと満たさなきゃいけなくなる。延南洞みたいな狭い敷地だと、それだけで計画が詰むことがある。だから建築家たちは、建物の骨組みを残したまま中身を入れ替えるような、大きな改修で勝負します。
そのとき、いちばんドラマチックに変わるのが「半地下」です。もともとは防空の意識や住宅事情のなかで広がった、光が入りにくい低い階。映画でおなじみの、あのじめっとした部屋を想像する人も多いと思います。でもヨンナムドンでは、そこが人気の席になっていたりする。
やり方は荒っぽいんです。コンクリートカッターで、昔は駐車場だった場所や前庭をざっくり削って、地面を一段掘り下げる。すると半地下の前に、光が落ちるサンクンテラスが生まれます。あの息苦しさが、外気の入る“いい凹み”に変わるんです。
店に入ると、仕上げはきれいなのに、ところどころに生活の痕跡が残っているのも面白い。壁は抜いて広げてあるのに、天井にはコンクリートの荒い断面が残っていたり、補強の鉄骨がむき出しだったりする。きちんと整えた顔の横に、家だった頃の骨が、ちょっとだけ見えている。
天井のあの配管跡も、そういう“骨”のひとつです。新しい店なのに、完全に新品じゃない。その混ざり方が、ヨンナムドンらしいなと思うんです。
