ソウルの広蔵市場、土曜の夜。1階の音と匂いに引っ張られたまま歩いていると、だいたい見落とします。探したいのは、段ボールの影や屋台の裏に隠れる、狭くて味気ないコンクリートの階段です。
一段、また一段と上がるたびに、空気が乾いて、温度がすっと下がる。下で沸騰していた油の熱が、ここでは蛍光灯の白さに変わります。1階の喧騒が遠のいて、代わりに聞こえてくるのは工業用ミシンの駆動音と、巨大な鋼の裁ちばさみが布を切る音。広蔵市場の2階は、織物と仕立てが積み重なった、別の都市です。
通路は、目が回るほど細くて、まっすぐで、どこまでも続く。匂いも変わります。防虫剤、生糸、糊付けのデンプン、古いアイロンの微かな金属。照明が明るいのは雰囲気作りじゃありません。高級な布を扱う人にとって、赤のわずかな違いを見分けることは、そのまま値段の違いになるからです。
ここは、大枠では昔からの分業で回っています。たとえば結婚式の韓服を仕立てるとき、既製品を買って終わり、じゃない。まず反物の店で布を選ぶ。床から天井まで積まれた絹やオーガンジーが、少しロウ引きした重い紙に包まれて眠っています。色の選び方にも流儀があって、花婿側の母親には深いインディゴや翡翠色、花嫁側の母親には温かいコーラルピンク、みたいな相談が当たり前のように交わされる。
布が決まっても、その店で縫うとは限りません。型紙職人の手を経て、廊下の先の縫い子へ。中には、韓服の首元をピシッと決める「トンジョン」という白い硬い襟、それだけを縫い付けて暮らしている職人までいる。
色鮮やかなポジャギに生地を包んで、若い見習いや配達員が細い路地を駆け抜けていく。おばあちゃんがオンドルの効いた床にあぐらをかいて、飾り結びのボタンをひと針ひと針、縫い付けている。ほんの数メートル下では、あれだけの人が大声で笑っているのに、ここでは時間がゆっくりです。
迷路の奥へ進むと、イェダンと呼ばれる婚礼の贈り物の通りにもぶつかります。金糸の刺繍の布団、蕎麦殻の詰まった翡翠色の枕。商人たちは宝石商みたいな目で、布の光り方を見ます。小さな紙コップのミックスコーヒーを片手に、値段の交渉は静かで、でも真剣です。
そして東のほうへ向かうと、空気はまた変わる。静かなシルクの世界から、ホコリっぽくて混沌としたヴィンテージの通りへ。戦後の放出品や輸入古着が集まって育ってきた場所で、いまはリーバイスやトレンチコート、90年代のストリートウェアが山みたいに積まれています。客引きの若い声のリズムは、数本隣で黙々と針を進める手の動きと、奇妙なくらい対照的です。
この市場の2つの階は、時間の中で逆向きに進んでいるように見えます。下は、映像や口コミでますます若く、騒がしく、いまの言葉で塗り替えられていく。でも上では、日常で韓服を着る機会が減って、反物の店があった角に空き区画も目立ち始める。
それでも、使い古したメジャーを首から下げた人がいて、布を測る手が止まらない限り、この2階はまだ生きている。広蔵市場は、上にある静かな仕事の重みを、いまもちゃんと抱えたまま、1階の熱狂の下で呼吸を続けています。
