日本で思い浮かべるチヂミとは、ちょっと別物です。ソウルの広蔵市場で出会うビンデトックは、まず音が違う。
市場のメインストリートに入ると、ジュージューという油の音より先に、低いモーターのうなりが聞こえてきます。昔からある屋台の最前列には、メットルと呼ばれる巨大な御影石の石臼がずらり。手で回すんじゃなくて、むき出しの電動モーターとベルトで、重たいリズムのまま回り続けています。
石臼の上にはペットボトルが逆さに吊られていて、水がポタ、ポタと一定の間隔で落ちる。そこへ、水に浸した緑豆をすくって放り込んでいくんです。
なぜ最新の機械を使わないのか。石でゆっくり挽くと、温度が上がりにくくて、香りや色がくすみにくい、と言われます。それに、粒を完全に粉にしないで、粗さを残せる。ここでは、その「粗さ」が大事なんです。
回る石と石の隙間から、黄色っぽいドロドロの生地がバケツに押し出されてきます。完全なペーストじゃない、豆の粒感が残った生地。
そして、その生地はだいたい、小麦粉を混ぜないタイプが主流です。安くて腹にたまる燃料として磨かれてきた、あの市場の条件にぴったりだから。けれど、つなぎが少ないぶん、普通に鉄板で焼けば崩れやすい。
じゃあ、どうするのか。
屋台の前にあるのは平らな鉄板じゃありません。縁が少し盛り上がった、巨大で浅い鉄の鍋。そこに油がなみなみと注がれて、高温でグツグツと揺れて、局地的な「油の池」ができています。
おばちゃんが、もやしやワラビ、豚ひき肉を混ぜた重たい生地をお玉ですくって、その池に落とす。焼くというより、油に投げ込む。
入った瞬間、外側の水分が一気に飛びます。石臼で挽いた生地の表面には細かな凹凸があって、そこに熱い油が流れ込む。すると縁が、ツルンと丸くならない。ノコギリの歯みたいにギザギザで、レース状の硬い外側が一気にできあがるんです。
箸でバキッと割ると、分厚い殻が割れる音。そのあと湯気と一緒に出てくるのは、みっちり詰まった、熱くて甘くないプリンみたいに柔らかい中心。中でもやしがシャキッと鳴って、豚肉がコクを足す。
通路の丸椅子に座って見渡すと、朝のうちに揚げられたビンデトックが、巨大な金貨みたいに積まれています。注文が入ると、おばちゃんは一枚つかんで、もう一度あの油の池へ。二度揚げで、戻った水気をもう一回追い出して、縁はさらに硬く、中心はさらに熱くなる。
焦げた豆と熱い鉄と油の匂い。耳元では、次の分を挽くモーターの低音が鳴り続ける。ギザギザの欠片をちぎって、お酢と醤油に浸かった生タマネギと一緒に口に放り込む。そして冷たい器のマッコリを流し込む。
下の階で沸騰しているこの油の熱が、すぐ頭上の静かな布の迷宮を、長いあいだ支えてきたんだと思えてきます。
