東莱温泉の「虚心庁」に入ると、温泉というより、巨大な屋内の“町”に入ったような気分になります。
大浴場の天井は、とてつもなく大きなガラスドーム。音がよく回るんです。滝みたいに落ちる湯の音、水しぶき、遠慮のないおしゃべりが重なって、空間そのものがざわめいている。外の景色に視線を預ける窓はあまりなくて、みんなの目は内側——人間のほうを向いています。
そして、その浴場を出て体を拭き、受付でもらったお揃いのTシャツと短パンに着替えた瞬間、空気が切り替わります。裸の共同体が、服を着た“家族連れの都市”に相転移する感じ。
ここから先はチムジルバン。温泉が「湯に浸かって帰る」体験だとしたら、ここは「時間ごと居座る」場所です。床にはオンドルの熱が入っていて、広場には、同じ格好の人たちが何百人も寝そべっている。スマホを見ている人もいれば、うとうとしている人もいる。ただ温められて、ただほどけていく。
周りには、炭や塩、翡翠みたいな素材で作られたサウナが並びます。灼熱の部屋に入って、限界まで汗を絞り出して、ふらふらのまま外へ出る。次の瞬間、氷の部屋に飛び込んで、開いた毛穴を一気に閉じる。その落差が、遊園地のアトラクションみたいに反復されていくんです。
長くいると、食べ物までこの“町”のルールに組み込まれてきます。床に座って、熱い石で焼かれた卵をかじる。殻を割るとき、隣の人の額にコツンと当てて笑い合う、あのやり方も見かけます。場の距離感が近いからこそ成立する、小さな遊びです。
喉の渇きには、甘いシッケ。冷えたボトルを手に持っているだけで、体の中心に風が通るみたい。
浴場で一度、主導権を明け渡した体が、そのままこの“町”の流れに乗っていく。虚心庁は、癒しを静けさで作る場所ではなくて、人の熱と時間の使い方で作る場所なんだと思います。
