ディープダイブ

巨大な団地を剥がし、18世紀の水墨画の谷を復元した水声洞

都市開発歴史の断面自然と絶景

渓谷を埋め尽くしていた市民アパートを解体中、コンクリートの下から昔の絵画に描かれた石橋を発見。団地の階段の残骸をあえて残しつつ、絵を頼りに自然を逆回転で取り戻した驚愕の都市計画。

トランスクリプト

ソチョンの路地で見た、古い建物が別の用途で息を吹き返していく感じ。あれが、街のスケールだとしたら。自然そのものを、まるごと巻き戻した場所があります。

景福宮の西側、仁王山のふもとに、水声洞という小さな谷があるんです。渓流があって、松が風に揺れていて、時代劇のセットみたいな景色。なんですが、森のど真ん中に突然、コンクリートの階段と、むき出しの鉄筋が突き出た古い柱だけがポツンと立っている。世界の終わりみたいな残骸です。

ここは1970年代から約40年間、「玉仁(オギン)第1市民アパート」という団地が谷に押し込まれていた場所でした。9棟のアパートに、300世帯を超える家族が暮らしていた。ご飯を作って、寝て、洗濯物を干して——その日常が、谷の上に乗っていたんです。

2008年、老朽化で取り壊しが決まり、解体前の調査が入ります。そこで専門家が土台の周りを探っていくと、コンクリートの下から、見覚えのある岩肌が出てきた。さらに奥を覗き込んだとき、石で組まれた小さな橋が現れました。麒麟橋。水声洞の風景を象徴する橋です。

当時の工事では、橋をどかす代わりに、上からセメントを流し込み、配管ごと飲み込ませてしまったらしい。だから団地の地下の暗闇で、その橋は丸飲みされたまま、奇跡的に原形をとどめていたんです。

そしてこれが、ただの「古い橋」じゃない。18世紀の絵師、鄭敾(チョン・ソン)が描いた『水声洞』に、そのまま描かれている橋でした。鄭敾は、韓国の絵画で実景を描く流れ——真景山水——を本格化させた人です。筆で描かれた岩の配置も、橋の曲線も、実物が、コンクリートの下で眠っていた。

ここからのソウル市の判断がすごい。更地にして新しい建物を建てるのではなく、その水墨画を復元の拠り所にして、谷の風景そのものを取り戻すことにしたんです。

工事は、前へ進むというより、時間を逆回転させる作業でした。70年代の分厚いコンクリートを、下の地層を傷つけないように少しずつ剥がす。迷ったら現代の測量図じゃなくて水墨画を見る。絵の中に松が立っている“余白”には、実際に松を植える。水声洞という名の通り、水の音が響く谷に戻すため、壁も外して水の流れを整え、途絶えていた水音まで蘇らせたんです。

こういうやり方は、日本の都市で育った感覚だと少しぎょっとします。新しく作り直すより、古い層を剥いででも、もっと古い層へ戻す。その意志が、都市計画として平然と現れる。

じゃあ、なぜ森の中に、あのコンクリートの階段だけが残されているのか。

復元チームの、計算された決断でした。もしあれがなかったら、訪れた人は、昔からずっとこの美しい自然が守られてきたんだ、と勘違いしてしまう。20世紀の荒々しい開発と、その上にあった生活の時間が、きれいに消えてしまう。

あの不自然な階段があると、ふと気づかされるんです。いま自分が立っている、この水墨画の空間。その頭上に40年間、誰かのリビングルームが浮かんでいたんだって。消して取り戻したものと、消したままにしないために残したもの。その両方が、水音の響く谷で、無言のまま共存しています。

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厳格な高さ制限が守り抜いた低い空の下、赤レンガと瓦屋根がひしめく路地を歩けば、かつてこの地に身を寄せていた芸術家たちと同じ仁王山の岩肌が目に飛び込んできます。

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