ソウルのちょっと古ぼけた雑居ビルにあるノレバン。部屋には、乾いたイカと、少し気の抜けたビールの匂いが漂っています。合皮のソファに座って、タンバリンを構えているとしましょう。
次にマイクを握る韓国人の同僚は、みんなで歌える無難な曲を入れる——そう思っていると、あっさり裏切られます。彼はレンガみたいに分厚いリモコンを両手で握りしめ、目を閉じ、少し膝を曲げて、突然、ものすごい形相で張り上げ始めるんです。
歌っているのは最新のK-POPじゃない。90年代や2000年代の、ひたすらドラマチックなパワーバラードです。女性ならソ・チャンフィの「Tears」。サビはほとんど絶叫。男性陣にとっての妙な到達点が、スチールハートの「She’s Gone」だったりする。韓国では、この曲の超高音パートを“地声っぽく”張り上げて乗り切ることが、ちょっとした通過儀礼みたいに語られてきました。
「高音病」なんて言葉があるくらいです。腕力じゃなく、どこまで高い声を出せるかで、自分の価値や男らしさを証明しようとする。バカみたいで、でも切実なゲーム。
機械の採点も、そのゲームに火をつけます。大手のTJやクムヨン(KY)の採点は、歌の細かい正確さというより、「どれだけぶつけたか」を点にしているような出方をする時がある。エコーが深めにかかった音の中で、彼は部屋の空気を震わせます。心の奥に溜まった悲哀や、ハンと呼ばれる感情を吐き出すみたいに。
そして最後のサビ。首の血管を浮かせ、顔を真っ赤にして、酸欠ギリギリまで高音を伸ばし切る。
歌が終わると、2秒ほどの静寂が訪れます。点数が出るまでの、変に重たい間。そこに数字が出た瞬間、部屋の空気が一気に決まるんです。
高得点なら、彼はようやく息を吐ける。周りはタンバリンを叩いて、勝ちを共有する。もし点が伸びなければ、照れ隠しの笑いが起きて、誰かが次の曲を急いで入れる。あの一回の絶叫が、なかったことにされる前に。
ノレバンのピークって、実はここなのかもしれません。うまく歌うことより、限界まで声を持ち上げて、点数という判定でその熱狂を正当化する。火曜日の夜から喉を壊すようなことをしてまで、みんなでそれを見届ける。その輪の真ん中にいると、歌っていないあなたの手も、タンバリンを握る力が強くなっていきます。
