日本のカラオケ、たとえば渋谷のビッグエコーやカラオケ館で、終了10分前を知らせるあの電話の音を思い浮かべてみてください。ガチャッと受話器を取ると、「10分前です」と事務的な声が響く。あの瞬間、時間がひとつの「箱」だったことを思い知らされますよね。きっちりお金を払って買った60分という箱の中にいて、時間が来たら静かに追い出される。清潔で、完璧に管理された取引です。
でも、韓国の「ノレバン」の時間は、箱ではありません。生き物みたいに伸び縮みする、終わりの見えない交渉なんです。
伝統的なノレバンに入ると、モニターの隅に赤いLEDの残り時間が出ていて、それが無慈悲にカウントダウンしていく。
残り3分。部屋の中にちょっとした焦りが生まれます。誰かが曲を探し、誰かがリモコンを連打して、とにかく切られる前に次を入れようとする。さあ、コートを着て外に出る準備——そのはずが。
時計が「01:00」になった、その時です。チリーンという小さな電子音。表示が点滅して、「1分」が、奇跡みたいに「31分」に変わる。横でピカピカと光り始めるのが、「서비스」、サービスという文字です。
追加料金は1ウォンも払っていません。お願いしたわけでもない。ただ、受付にいるオーナーが、ふっとおまけの時間を落としてくれた。
なぜこんなことが起きるのか。受付にあるマスターコンソールを見ればだいたい察せます。社長さんは監視カメラのモニターに囲まれて座っている。防犯だけじゃなく、部屋の空気も見ているんです。
もしソファで退屈そうにスマホをいじっていたら、何も起きない。でも、上着を脱いで立ち上がって、タンバリンを振り回して、マイクに向かって絶叫していたら。モニター越しに「お、盛り上がってるな。外に待ちもいないし」と思った社長さんが、ボタンをポチッと押す。それが、あなたの部屋に無料の30分を注入する正体です。
客商売の戦略でもあるし、韓国特有の「情(ジョン)」の感覚でもある。いい場を、途中でぶった切るのは野暮だ、っていう。
ただ、このサービスは贈り物であると同時に、罠でもあります。
一方的にもらった時間だからこそ、途中で帰りにくい。30分サービスしてもらったのに、5分だけ歌ってさっと会計の前を通り過ぎたら、厚意を踏みにじるみたいで落ち着かないんです。
深夜2時半。喉はガラガラ、足もパンパン。もう帰りたい。残り表示がようやく「02:00」になり、ついに終わる、助かった……と思った瞬間。ピカン。表示が「22:00(残り22分)」に増えて、また「서비스」の文字が点滅する。
部屋の中に、歓喜と絶望が混ざったうめき声が落ちます。歌わなきゃいけない。完全に厚意の人質です。
だからこそ、地下のノレバンで時計の横に灯る赤い「서비스」は、ただの延長じゃない重みを持っている。汗だくで声を枯らしながら、受付の向こうの見えない相手と無言の駆け引きをする。騒がしさと礼儀正しさを差し出して、「まだこの夜は終わらなくていい」と言われる、あの小さな赤い光です。
