九州を旅していると、木や電信柱に、青とオレンジの配色をした目印を見かけることがあります。「九州オルレ」のコースですね。週末にリュックを背負って歩いたことがある、という人もいるかもしれません。
でも、この「オルレ」という言葉、韓国語で「トレッキング」や「ハイキングコース」という意味だと思っていませんか?実は、全然違うんです。
この言葉の本当の意味を知るには、韓国の南に浮かぶ火山島、済州島の自然に目を向ける必要があります。
済州島は「三多」——風と石と女の島、と呼ばれてきました。海から容赦なく吹き付ける風の中で、通りに面して玄関を作ったらどうなるか。潮風が入り込み、嵐のたびに家は傷んでいく。
そこで島の人たちは、家を通りから少し奥まった場所に建てました。そして公道から家の庭先までを繋ぐ、細くて、あえてくねくねと曲がった路地を作ったんです。両脇には、済州島特有の黒い玄武岩の石垣。セメントで固めず、石と石の間にあえて隙間を残して、風を逃がす。
この、風を和らげるための曲線的な路地。これこそが、済州島の方言で「オルレ」と呼ばれるものなんです。ハイキングコースでもなんでもなく、厳しい外の世界と、安全でプライベートな家の内側を繋ぐ「境界線」でした。
そして、このオルレという発想には、もうひとつの側面があります。外から訪ねてくる人を、きちんと「迎え入れる」ための道でもあったんです。石垣に囲まれた曲がりくねった路地は、訪問者に「ここから先は、あなたを受け入れている」と伝える構造でした。急いで通り過ぎる場所じゃない、という考え方が、ここに詰まっています。
公道とオルレの境目には、その歓迎の意思を示す仕組みもありました。「チョンナン」と呼ばれる木の棒で、入り口の石柱に渡すことで家人の在不在を示したんです。棒が外されて、入り口がすっと開いている時——それは「どうぞ、中へ」という無言の招待でした。
そして九州で見かける、あの青とオレンジの配色。あれは単なるコースのマークというより、済州島の「門が開いている」という思想ごと運ばれてきたものでもあります。海を隔てた別の土地で歩いていても、ふと、迎え入れられているような気持ちになるのは、そのせいかもしれません。
