ディープダイブ

坂の上に若者を誘い込む90年代ポップカルチャー

文化の交差点アートとデザイン都市開発生活の息遣い

伝統の街に突然現れる日本のアニメキャラクターたち。それは韓国の若者のノスタルジーを刺激し、急な坂を登らせるための緻密に計算された罠でした。

トランスクリプト

壁の前で、思わず足が止まりました。

目の前の巨大な壁から、湘北高校バスケ部の桜木花道が、ものすごい眼力でこちらを睨みつけていたんです。少し歩けば、傘をさして雨を待つトトロや、『千と千尋の神隠し』のカオナシまでいます。

なぜ韓国の伝統のど真ん中で、90年代の日本のポップカルチャーが壁いっぱいに描かれているのか。実はここ「滋満壁画村」の壁画は、ただのアートじゃありません。生き残りをかけた、かなり切実で、そして見事なゲリラ戦の記録でもあるんです。

この丘が壁画で覆われる直前、ここはブルドーザーで更地にされる寸前でした。村を救うために集まったアーティストたちは、最初から一つの問題にぶつかっていたそうです。ただ韓国の伝統的なトラや花の絵を描いても、誰もあんな急な坂を登ってきてくれない。だって、本物の伝統なら坂の下にいくらでもありますからね。若者たちを、きつい階段の上まで引きずり上げるには、もっと強烈なフック、ある種のドーパミンが必要だったんです。

そこで彼らが武器にしたのが、1990年代のノスタルジーでした。

ここからが、この場所の隠されたロジックです。韓国では戦後ずっと、日本の大衆文化の輸入が厳しく制限されていました。それが1998年以降、段階的に開放されていくんです。日本の音楽や漫画が徐々に流れ込み始めたのは、ちょうど今の韓国のミレニアル世代が、多感な時期を過ごしていた頃ですね。

例えば『スラムダンク』。日本では青春の代名詞ですが、韓国の若者にとっては「韓国の青春」そのものでもあります。当時はローカライズされていて、桜木花道は「カン・ベクホ」、湘北高校は「プクサン高校」という名前で親しまれました。だから、2014年ごろにこの壁画が描かれたとき、それは日本へのオマージュというよりは、韓国の20代、30代の若者たちに向けた、超ピンポイントな「ノスタルジーの罠」だったのかもしれません。

この罠は、見事に機能しました。若者たちは坂の下の伝統的な村を素通りして、トトロやカン・ベクホと一緒にセルフィーを撮るために、汗だくでこの坂道を登ってくるようになったんです。

そして今度は、日本の観光客がやってきます。韓国の歴史のルーツを見に来たはずの私たちが、階段を登った先で、非公認の、しかも巨大なアニメキャラクターに出くわす。その猛烈な違和感と、逆輸入されたような懐かしさに、思わずスマホを取り出して写真を撮ってしまう。それがSNSのアルゴリズムに乗って、さらに多くの日本人をこの丘へ呼び寄せるわけです。

でも、私がこの場所で一番心を動かされたのは、この壁の「裏側」の景色でした。

巨大なトトロが描かれた壁のすぐ内側。そこにはおそらく、温かいオンドルの床に座ってテレビの連続ドラマを見ている、80代のおばあさんがいます。日本の統治時代を生き抜き、朝鮮戦争の焼け野原をくぐり抜けてきた彼女は、トトロが何者かなんて知らないかもしれません。

でも彼女は、自分の家の外壁にあのニコニコした巨大な灰色の生き物が描かれているおかげで、若者たちがこの急な坂を登ってくることを知っています。観光客が来るから、市が道を舗装し、街灯を立ててくれた。そして何より、この小さな家が取り壊されずに済んでいることを。

斜面に張り付くように建つ、簡素なカフェ。そこからアイスアメリカーノを買って出てきた韓国の若者たちが、壁の前の日本の観光客とすれ違います。少しペンキの剥げたトトロは、ただ黙って、坂の下にあるピカピカの伝統の村を見下ろしています。そしてすぐ近くには、このトトロよりもはるかに古い、一基の石碑が静かに立っている。その話は次の章で。

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